第6回 病院長のゆかいな仲間たち

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【がんセンター】がん患者と家族が話しやすい環境を整える

病院長×がんセンター
岐阜大学医学部附属病院  小倉 真治 病院長
がんセンター ピア・サポートセンター  有賀 紀美子
       病診連携部門専任相談支援担当  山本 恭孝

「癒し」「結び」の場 がん患者サロン「和み」

小倉 がんセンターではどのようなお仕事をされていますか。

有賀 がん患者サロン「和み」で相談員をしています。私自身ががん患者で、乳がんと直腸がんが見つかりました。幸い早期発見で、助かりました。患者さんにも「私も患者ですよ」というとほっとされます。

小倉 どれくらいの間隔でいらっしゃっていますか。

有賀 原則は月、水、金曜日に来ていて、第一月曜日はお休みです。

小倉 サロンの雰囲気はいかがですか。

有賀 相談というより、サロンという名の通り、輪になって話ができて、癒しの場のようであるといいなあと思っています。

小倉 どういう患者さんが来られますか。

有賀 先生から聞いてきたという方もいらっしゃいますし、館内のアナウンスもしていただいています。「還暦ががん暦になりました」と最初に来られた方も印象に残っています。

小倉 初めての方もいれば、何度も来られて顔見知りの方もいらっしゃるでしょうね。そういう方々がお話をされて、心が安らかになるという感じですか。

有賀 帰りは笑顔で帰っていかれるので、お話できてよかったと思います。何よりも私自身が皆さんから元気をいただいています。

小倉 来られるタイミングで一番多いのは告知直後ですか。

有賀 そうでもありませんが、中には余命宣告されたという方もいらっしゃいます。「余命宣告がすべてではないよ」というお話をさせていただきます。「ご趣味はありますか」とお尋ねするなどして、お話をお聞きしています。実際、絵を描くことがご趣味で、夜中に目が覚めた時に描いたというすごく大きな作品を見せてくださり、主治医の先生にも持っていかれた方もいました。

小倉 1日どれくらいの方がいらっしゃいますか。

有賀 その日にもよりますが、部屋いっぱいになることもあります。サロンですので、皆さんでお話していただいています。同じ病気の方がいた場合は、食事について話されたり、中には食事についても勉強している方が伝授されたりすることもあります。結びがあっていいなあと感じています。

小倉 声を掛ける時に、聞く側の姿勢として大切にされていることは。

有賀 患者さんやご家族のお話に耳を傾けるようにしています。いつも感じていることは、「皆さんから元気をいただいています」「皆さんに助けられています」と思っています。

小倉 聞くスタンスなんですね。サロンに患者さんが来られて、心境の変化は見られますか。

有賀 中には精神的に病んでいる方もいらっしゃいます。泣きながらお話されるのを聞いていますと、大変な思いをされていると感じますが、話をしていると、顔の表情も変わっていきます。最初は真剣な顔ですが、徐々に柔らかくなり、帰られるころには、ほっとされて笑顔が出ると、良かったなあと思います。

小倉 家族と本人とではどちらが多いですか。
有賀 本人のほうが多いですが、ご家族の方でも真剣な方もいますね。ほかの病院で相談されていて、話が進まず、こちらにいらっしゃる方もいます。

制度、経済面などの相談をサポート

小倉 山本さんは兼任の相談支援員としてどのように関わっていますか。

山本 病院内では医療ソーシャルワーカーをしていますが、がんセンターでは、がん相談員として、電話相談や対面相談を担当しています。

小倉 有賀さんとの仕事のすみわけは。

山本 ソーシャルワーカーとして、制度や経済的なことを含めて、相談を受けています。今後は、がんで亡くなるというより、がんとともに生活するという人が増えてきます。特に働き盛りの方ががんになると、治療するために、職場との関係性が崩れたり、職場に理解がないためにやめないといけなかったり、ほかの方に迷惑をかけるからと、離職する方も増えてきています。当院でも院内に社会保険労務士とハローワーク、さらにはナビゲーターと連携しながら、相談に応じています。職場との関係性や傷病手当金の申請、障害年金の相談などは社労士につないだり、がんになって一度はやめたけれど、体調がいいので、また働きたいという方にはハローワークにつないだり、私たちソーシャルワーカーも相談させていただきながら、患者さんの支援に努めています。

小倉 どれくらいの方がいらっしゃいますか。

山本 まちまちですが、「最初は何を相談していいのかわからなくて来ました」という方も多くいます。先生からご紹介していただくこともありますが、待っているだけでは患者さんはいらっしゃらないので、「なんでも週間」をお盆に開催しました。その時は、有賀さんやソーシャルワーカーをはじめ、栄養士、薬剤師、看護師、事務方も参加しました。アンケートの結果を見てみると、「どこにあるのかわからない」「何を相談していいのかわからない」という回答が多く、患者さんやご家族は何に迷っているのかが分かりました。現在、待合のモニターなどで告知をしていますが、「相談できる場所が病院の中にあるんだよ」ということをより周知していきたいと思っています。

小倉 相談できる時間帯は。

山本 基本は月曜日から金曜日の午前9時から午後5時までです。

小倉 場所はどちらになりますか。
山本 医療連携センターを窓口にしています。連絡をいただいて窓口に行ったり、直接来ていただいて相談に乗ることもあったり、先生から連絡があり駆け付けるという場合もあります。

岐阜県ピアサポーターとソーシャルワーカーが応対

小倉 サロンで相談する上で、資格は必要なんですか。

有賀 岐阜県のピアサポーターと、乳がん患者会本部のABCサポートサービスを取得しました。

小倉 ソーシャルワーカーは。

山本 がんセンターには2人配属しています。基本的にソーシャルワーカー全員で対応できるところは対応しています。現状としては、相談員は二足の草鞋を履いている状況で、現場の業務をしながら、がん相談があれば取り組むというように、力を合わせながら結束してチームで取り組んでいます。将来的な理想としては、いまつながっているチームの中で育ってくる方がいれば、専属で就くようになると一番いい形になると考えています。

有賀 サロンの場合は、コーヒーなども出て、皆さんで安心して話せる場所があってもいいのではと思います。先生も中に入っていただいて、半月に1回、行っている病院もありますので、そういう場所があってもいいのかなと。

小倉 なるほどね。
有賀 中には先生に話ができないという患者さんもいらっしゃいますが、「自分から話してください」と伝えています。そして、「ノートやメモ帳を作ってください」と言っています。聞こうと思っても忘れて帰ってくることがありますから、ノートが必要だと。私の場合、乳がん患者なので、ピンクの表紙のノートを作っていて、いま4冊目です。聞こうと思ったことに対して、答えが返ってきたものは書き入れるようにしています。サロンに来られる方の中にも「メモ帳を作りました」という方も大勢いらっしゃいます。

労わり合いながら一緒に選択肢を考えていく

小倉 相談員というお仕事のやりがいや誇りは。

山本 私たちの職種は、先生や看護師のように、治療やケアするという目に見えるものではなく、思いを傾聴して、その方に合う選択肢を一緒に考えるというのが、ソーシャルワーカーや相談員の強みと考えています。患者さんやご家族が話しやすい環境を整え、話を聴かせていただく中で、その答えに対して、多職種の立場からの意見を確認しながら、患者さんやご家族がより良い方向に進んでいただけるように努めています。

有賀 このお仕事をさせていただいて、人との交わりがどれだけ大切かということを勉強し、気付くことができました。「労わる」ということも、これからも必要です。私自身もたくさん労わっていただいていますので、しっかり連携を取りながら、サロンの運営に携わって行けたらと思っています。
小倉 医者や看護師は、患者さんや市民の皆さんから仕事の内容が見えますが、このような仕事で支えてくださっていることをあらためて実感しました。がん患者は2人に1人の時代となり、特に大学病院の患者さんの多くは該当する方も多いと思います。このような活動が広がっていくといいと思っています。これからもよろしくお願いします。

【過去の様子】

第一回 病院長×保安職員

第二回 病院長×医療ソーシャルワーカー

第三回 病院長×誠仁会

第四回 病院長×リハビリテーション科

第五回 病院長×クラーク

[次のお話へ]

▲有賀 紀美子
▲有賀 紀美子
▲山本 恭孝
▲山本 恭孝