女性のライフステージに寄り添う医療

Vol.63

2026.11.04

特集

女性のライフステージに寄り添う医療

 女性の身体や心は、ライフステージの移り変わりとともに大きく変化します。
 岐阜大学医学部附属病院の産婦人科と乳腺外科では、最新の医療技術と専門性を備えながら、患者さん一人ひとりの人生に親身に寄り添う診療を行っています。
 今回は、現場の最前線で活躍する3名の女性医師による鼎談をお届けします。



――まずは、先生方が現在の診療科を選ばれたきっかけについて教えてください。

志賀先生 一番の理由は、純粋にお産が好きだったことです。単に病気や不調を治す治療にとどまらず、新しい命の誕生に立ち会い、ご家族の新しいスタートを直接支えられるところに大きな魅力を感じて志しました。

菊野先生 私は研修医の時に、手術で患者さんを治せる外科系の魅力と、救急疾患が多く迅速な判断・対応が求められる現場に惹かれて産婦人科を選びました。がん患者さんを5年ほど長期でフォローすることもありますが、再発なく順調に過ごされている方とは、診察の時に近況や日常の出来事についてお話ししたり、友達同士のような会話になることもあります。女性同士だからこそ共感し合える場面が多く、病気以外の些細なことも気軽に相談していただけるのがうれしいですね。

志賀先生 産婦人科はどうしてもプライベートでデリケートな悩みが多くなります。「女性の先生に話せてありがたかった」と言っていただける機会も多く、同じ女性として、力になれているのかなと感じるとうれしいですよね。

大川先生 私も志賀先生と同じで、患者さんから「女性医師でよかった」と言っていただける科であることや、手術を行う診療科で働きたかったことなどが、乳腺外科を志した理由です。乳腺外科は診断から治療、そして終末期まで一貫して一人の患者さんを診られる点や、乳がんという病気が身近であったことも決め手でした。




――ご自身の経験や立場が、患者さんへの共感や診療に生かされたと感じることはありますか?

菊野先生 内診の痛みや生理痛から、更年期特有の イライラや頭痛などの不調まで、同じ女性として経験することでより深く理解できるところもあると感じています。「この症状はこんなにつらいんだ」という実感、感覚として分かるため、できる限り、患者さんの気持ちに応えたいと考えています。

志賀先生 実際に経験したからこそ分かること、ありますよね。私も、出産を経験したことで、妊娠中の心身の不調や産後の育児の苦労など、患者さんの立場に立って考えやすくなったと思います。理解とまではいかないかもしれませんが、それでも産後の回診で患者さんとお話しする際も、自分が経験したことを重ねながら話を聞くことができるということを自身の産後に実感しました。

大川先生 若い乳がんの患者さんで「がんの治療も大切だけれど、将来の妊娠・出産も諦めたくない」というお気持ちを聞くことがあります。私自身もその切実な思いが、同じ女性としてよく分かりますので、治療方針を決める際も患者さんのお気持ちにしっかりと寄り添いながら一緒に考えていくよう心がけています。




――大学病院としての強みや、他の診療科との連携について教えてください。

志賀先生 当院の大きな強みの一つに「がん生殖医療」があります。抗がん剤治療などによって卵巣機能が低下してしまう前に、受精卵や卵子を凍結保存するというものです。乳腺外科など他の科の主治医から紹介を受け、産婦人科が中心となってカウンセリングや意思決定支援を行っています。妊娠可能な年代の患者さんを診る全ての診療科と幅広く連携しているので、血液内科などで治療を受ける男性患者さんの精子凍結保存にも対応しています。

菊野先生 産婦人科では、外科や泌尿器科など他の診療科とも連携し、県内最多となる悪性腫瘍の手術を行っています。また、60~70代の女性に多い「骨盤臓器脱(子宮脱など)」に対しては、腹腔鏡を用いて骨盤内の臓器を支える手術など、新しい治療の選択肢も積極的に取り入れています。がん治療から、年齢とともに増える女性特有の疾患まで幅広く対応し、女性が高齢期になっても快適に生活できるよう、診療体制の充実に取り組んでいます。



――妊娠前の健康管理である「プレコンセプションケア」や、若年層へのアプローチはいかがでしょうか?

志賀先生 「プレコンセプションケア」とは、将来妊娠を計画している方が、妊娠前に受けるケアやアドバイスのことです。妊娠可能な全ての女性にケアを提供することが理想ですが、当院のプレコンセプションケア外来では、持病のある方や過去に妊娠合併症を経験された方など、より専門的な支援が必要な方を対象としています。

菊野先生 プレコンセプションケアの考え方を広げるならば、慢性化した生理痛などを我慢するのではなく、もっと気軽に受診してもらえたらと思っています。特に10代・20代の若い患者さんも相談しやすいよう、助産師外来を活用した取り組みを進めていきたいと考え、動き始めています。

志賀先生 「プレコンセプションケア」と聞くと少し難しく感じられるかもしれませんが、ケア自体は決して難しいことではないんですよね。適正体重の維持や禁煙、葉酸サプリの摂取など、日常の中でできる身近な体づくりのことなんです。事前にご自身の体を知り、日頃から備えておくことで、妊娠に対する不安を和らげるだけでなく、万が一の妊娠合併症の重症化を防ぐことにつながると考えています。



――若年層の乳がんにおける特有の課題や支援についても教えてください。

大川先生 乳がん検診は基本的に40歳からのため、20代・30代の若年層は自覚症状で見つかることが多く、遺伝性の割合も高くなります。また、5~10年に及ぶ内分泌療法中は妊娠ができないため、治療前に卵子や受精卵を保存する妊孕性温存の説明が必須となります。手術においても乳房温存や再建を希望される方が多いため、ご希望に添えるよう丁寧にサポートしています。



――育児をしながら働かれている女性医師の先生も多い中、働きやすさという面で、昔と変わった点や環境整備についてはいかがですか?

志賀先生 医師数が増えたことに伴って「複数主治医制」が導入され、一人の医師に過度な負担がかからないシステムが整いました。産婦人科は女性医師が増え、私も含めて子育て中の人も多いです。子どもの急な発熱で保育園から呼び出しがあっても、自然にカバーし合える雰囲気があります。

菊野先生 私が働き始めた頃と比べると、現在は出産後もフルタイムで復帰するのが当たり前になりました。こうした意識の変化があるからこそ、若い医師もキャリアを諦めずに働き続けられる環境になっています。

大川先生 乳腺外科でも若手の女性医師が増えてきました。昔のように他科の手術と兼任するのではなく、専攻医のうちに必要な研修を経て、自分の専門分野に集中してキャリアを積める体制へと変わりつつあると感じています。



――最後に、お一人ずつ、読者の皆さんへのメッセージをお願いします。

大川先生 気になるところや自覚症状があれば、早めに受診していただくことが大切です。早期発見ができれば命にかかわるリスクも低く、若い方であれば妊娠の可能性を守るための対応も早くできますので、安心してご相談ください。

菊野先生 「おりものが多い」「生理周期が乱れる」など、「こんなことで受診していいのかな」と思うような小さな悩みでも、我慢せずにぜひ受診してください。それが、病気の早期発見や苦痛の解消につながる第一歩になると思います。

志賀先生 大学病院というとハードルが高く感じられるかもしれませんが、実際には若い医師も多く、患者さんのお話にしっかりと耳を傾けられる環境です。気負わずに、不安なことを気軽にご相談いただければと思います。













プレコンセプションケア

 「プレコンセプションケア」とは、将来妊娠を計画している方、妊娠に対して不安をお持ちの方が、妊娠前に受けるケアやアドバイスのこと。対象となるのは、妊娠可能な年齢の女性で、慢性疾患や精神疾患を有する方、がんサバイバーの方、不妊症・不育症の方、過去の妊娠で合併症の既往がある方など。外来では、患者さんが希望する内容に合わせて、事前の情報提供やアドバイスを行います。例えば、持病で薬を飲んでいる場合、その薬が赤ちゃんにどのような影響を与えるか、どのように計画をしていくと良いか、など、患者さんによってさまざまなケアの形があります。また、当院で出産し、妊娠糖尿病や妊娠高血圧を経験された方を対象に、出産後の「インター・アフターコンセプションケア」にも取り組み、妊娠をきっかけとした長期的な健康管理をサポートしています。事前の準備から産後の長期的な健康まで、安心してライフステージを歩めるよう一貫したケアを提供しています。


出生前遺伝学的検査

 母体血を用いた「出生前遺伝学的検査(NIPT)」は、母体の採血のみで赤ちゃんの3つの染色体の数的異常(21トリソミー、18トリソミー、13トリソミー)の可能性を調べる検査です。羊水検査のようにお腹に針を刺さないため、非侵襲的で高精度の検査が可能です。対象は妊娠9週0日以降の妊婦さんで、高年齢の方や、事前の超音波検査などで異常の可能性が示唆された方、過去に染色体異常のお子さんを妊娠した既往のある方など。このNIPTは採血だけで体の負担が少ない一方で、非確定的検査であるため、万が一、結果が陽性でも100%確定ではありません。近年、十分な説明やフォローなしに結果だけを通知する無認可施設が増え、妊婦さんが不安なままその後の判断を迷ってしまうケースが問題になっています。その点、認可施設である当院では、臨床遺伝専門医と遺伝カウンセラーがチームを組んで、検査前も検査後も丁寧なカウンセリングを行います。


婦人科悪性腫瘍に対する治療

 当院は「都道府県がん診療連携拠点病院」に指定され、子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がん、外陰がん、腟がんといった婦人科悪性腫瘍の高度な診療を行っています。指導医や専門医をはじめとするプロフェッショナルが多数在籍し、ガイドラインに沿った標準治療を軸に、放射線治療や抗がん剤を組み合わせた集学的治療から、がん遺伝子パネル検査を活用した個別化治療まで幅広い選択肢を提供。2025年度のがんゲノム遺伝子パネル検査数は年間175例と県内最多の実績を誇ります。また、最新の治療法確立を目指した臨床試験へも積極的に参加しています。さらに若い世代の患者さんに対しては、抗がん剤や放射線治療による将来の妊娠への影響に配慮し、治療前に受精卵や卵子を凍結保存する「がん生殖外来」を通じて、がん治療と将来の妊娠の希望をともに支える意思決定支援にも注力しています。高度な医療技術と多職種チームの連携により、患者さん一人ひとりのライフステージに優しく寄り添う最先端のがん診療を届けています。




婦人科低侵襲手術

 体への負担をできる限り抑え、早期の復帰をかなえる治療として、当科では腹腔鏡手術、ロボット手術、子宮鏡手術などの「低侵襲手術(患者さんの負担の少ない手術)」を推進しています。子宮筋腫などの良性疾患から子宮頸がん、子宮体がんなどの悪性腫瘍まで幅広い症例に対応しており、年間実施件数は約360例と、県内でもトップクラスの実績を誇ります。また、低侵襲で悪性腫瘍の手術を行える医療機関は限られていますが、当科では悪性腫瘍に対する低侵襲手術を県内で最も多く実施しています。加えて、加齢によって生じる骨盤臓器脱(子宮脱など)に対して、医療用の特殊なネットを用いて臓器を支える腹腔鏡手術(LSC)を積極的に行なっています。当科には多くの女性医師が在籍し、診察だけでなく手術の執刀までできる体制があることも安心感につながっています。傷口を小さく、痛みを少なくするために、患者さんの思いに応え、体に優しい高度医療を提供しています。