ロボット支援手術センター

Vol.56

2024.06.30

特集

ロボット支援手術センター

2024年4月、「ロボット支援手術センター」が始動。
最先端のロボットが活躍する手術室から、 岐阜の医療の未来を切り拓きます。


負担減、術後の回復が早い最先端のロボット支援手術

 ロボット支援手術とは、医療用ロボットを使った手術のこと。術者である医師が操縦席に座り、アームの操作をして手術を行います。通常の腹腔鏡手術のカメラは2D(平面画像)ですが、医療用ロボット「ダヴィンチX i 」は遠近感を伴う3 D(3次元立体画像)で、肉眼の10~15倍に視野を拡大した状態で、手ブレのない繊細な動きが可能です。患者さんにとっても、傷口が小さく出血も少ないため、術後の回復が早いという最大のメリットがあります。
 当院は2017年に「ダヴィンチXi」を導入。2022年には、新手術棟が完成し、ダヴィンチ2 台体制のロボット手術室が整いました。ロボット支援手術の保険適用拡大のタイミングが重なったこともあり、日々多くの患者さんがロボット支援手術を受けています。近年、さまざまな診療科でロボット支援手術が選択されるようになりました。今後さらに一般化が進むにあたり、より安全で確かな医療を提供するために、2024年4月に「ロボット支援手術センター」を開設しました。
 ロボット支援手術は、低侵襲※手術で患者さんの負担が大幅に軽減できるうえ、安全性がとても高い術式といえます。しかしそれは、ロボットに任せておけば全てうまくいくという意味ではありません。「ロボット手術」という言葉から、ロボットが完璧に手術をこなしてくれる印象を持つ人もいるかもしれませんが、どこまでいっても手術をするのは人間で、ロボットは医師を「支援」する存在。訓練を積んだ医師が適切な操作をしてはじめて、ロボットは動き始めることができます。「最新鋭のロボットさえ導入すれば、高度な医療が提供できる」という単純な話ではなく、医師自身がロボットの特性をしっかり理解し、安全に扱える高い技術を有していないと、本当の意味で医療の発展とは言えないと思っています。


     操縦席にいる医師の手の動きを、ロボットアームが忠実に再現してくれる、手術支援ロボット。肉眼の10~15倍に拡大した立体画面で確認できるため、臓器や周囲構造を鮮明に把握できます。従来不可能とされていた手術操作ができる、手ぶれがないなど、メリットは多数。出血量が少なく、小さな傷で精度の高い手術が実現できるため、患者さんの負担が大幅に軽減できることが最大のメリットです。

     現在、岐阜大学医学部附属病院では、2台の「ダヴィンチXi」が活躍しています。
CRC

安全性を確立するための組織編成と独自の取り組み

 どんな手術でも、もっとも大切なのは「安全性」です。ダヴィンチは、患者さんの心と体の負担を軽減してくれる優秀なロボットであり、数え切れないほどのメリットがありますが、一つデメリットを挙げるとすれば「触覚がない」という点です。術者はロボットアームを介しているため、鉗子で触れた感覚を瞬時にキャッチすることができません。従来の手術では当たり前のように触って感知していた動作を、視覚によって適切に判断する必要があり、それには十分な経験と高い技術が不可欠なのです。
 また、これは通常の手術にも言えることですが、緊急時の対応についても慎重に考える必要があります。特にロボット支援手術の場合は通常時と緊急時対応が異なるため、万が一の事態に遭遇した場合も冷静に対処できるよう、チーム一丸となって定期的に訓練を重ねています。安全性を確立するための手術の検証や緊急時対策については、センター内に「ロボット支援手術適正使用検証委員会」を置き、医療安全管理室と臨床倫理室にも本組織に加わってもらい、新規手術の妥当性や安全性に関する検討・対策を行っています。このように、医療安全対策を一層強化した当院独自の仕組みにより、患者さんへ安全な医療を提供していきたいと思います。



診療科の垣根を越えて、手術の質の向上を目指す

 これまでは、個々の医師の実績や手腕によって「その先生にしかできない、複雑で高難度な手術」が存在していました。今後、高い精度を誇るロボットによる支援手術が一般化していくと、こうした高難度な手術もシンプルかつ効率的に、再現性高く行うことが可能となり、さらにその知見も共有しやすくなる、ロボット支援手術にはそうしたメリットもあります。
 当院では、泌尿器科をはじめ、消化器外科、呼吸器外科、婦人科といった複数の診療科でロボット支援手術を導入してきました。豊富な経験を誇るスペシャリストが、最新の設備下でさらなる実績を積んでいます。センターとしては、各科の貴重な手術実績を共有しながら、診療科の垣根を越えて横断的に関わり合い、それを統一化することで、新たな高難度手術へ挑める体制を構築したいと考えます。具体的には、実際の手術を供覧するカンファレンスを行い、手術方法の標準化や改善を行います。共有や改善を重ねていくことにより、医師はトラブルシューティングの引き出しを増やすことができ、手術の知見をさらに多く蓄積できます。各診療科の枠組みを越えてロボット支援手術の専門家をチームとして集結させることで、患者さん一人ひとりに最適で安全な医療を提供していきたいと考えています。
 また、これは通常の手術にも言えることですが、緊急時の対応についても慎重に考える必要があります。特にロボット支援手術の場合は通常時と緊急時対応が異なるため、万が一の事態に遭遇した場合も冷静に対処できるよう、チーム一丸となって定期的に訓練を重ねています。安全性を確立するための手術の検証や緊急時対策については、センター内に「ロボット支援手術適正使用検証委員会」を置き、医療安全管理室と臨床倫理室にも本組織に加わってもらい、新規手術の妥当性や安全性に関する検討・対策を行っています。このように、医療安全対策を一層強化した当院独自の仕組みにより、患者さんへ安全な医療を提供していきたいと思います。


未来を担う若手医師への手術教育システムを構築

 ロボット支援手術の技術を若手医師に継承していくことも、大学病院としての大きな任務です。当院の「内視鏡外科手術トレーニングセンター」では、ロボット支援手術のシュミレータを用いたトレーニングができる環境が整っていますが、実際の手術室においても若手医師がVRゴーグルを装着し、画面を見ながら術者の解説を聞くことで手術の擬似体験ができるという、教育上にも大きな利点があります。センターとして手術教育システムを確立することで、若手への教育はもちろん、それが一つのモデルとなって他院への指導などへ発展していくことも見据えています。そうした教育・指導を、限られた診療科、限られた医師だけで担うのではなく、院全体として取り組んでいくことが、県唯一の大学病院として目指すところでもあります。




将来、ロボット支援手術は外科手術のスタンダードに

 遠くない将来、手術の概念はさらに変化していきます。ロボット支援手術は、患者さんの負担を軽減するためにもとても有用で、今後主流になっていくべき術式。各手術室にロボットが1台ずつ活躍している、そんな未来はすぐそこまで来ていると思います。
 岐阜県のように医師の充足率が低い地域では、遠隔手術システムの構築も急がれています。5G回線の問題もあり、現段階では実現に向けての課題は山積みですが、それでも少しずつ遠隔手術の可能性についても議論・検証を進めていきたいと思います。
 手術とは文字通り、「手の術」です。その昔はそれこそ手探りで、医師の手技ひとつで行ってきました。そこから革新的な進化を遂げ、今度は「ロボット」という新しい手が加わりました。今まで不可能だったことを可能にしてくれる、そんな革命的な手であることは間違いありませんが、その手を最大限活かすためには、プロフェッショナルの手と目、そしてその確かさを裏付けるチームが必要不可欠です。当センターは、高い技術と医療安全に尽くすプロフェッショナル集団として、ここから地域医療を牽引する存在になること、そして未来の医療を切り拓く若手を多数送り出すことを、大学病院としての使命と認識し、これからも最前線を進み続けたいと思っています。何よりも、患者さん一人ひとりに、最善の医療を提供をするために、新たなスタンダードを、ここ岐阜大学医学部附属病院から広げていきます。

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お話を聞いた人・・・
岐阜大学医学部附属病院 ロボット支援手術センター
    センター長
  1. 古家 琢也 教授
  2. (泌尿器科)
    副センター長
  3. 岩田 尚 教授
  4. (呼吸器外科)