えんげチーム

Vol.56

2024.06.29

クローズアップ!

えんげチーム
岐阜大学医学部附属病院で働くさまざまなスタッフの仕事内容を紹介します。


「食べたい」という気持ちに、専門家チームとして寄り添います

 「嚥下(えんげ)」とは、飲食物を飲み込み、咽頭と食道を経て胃へ送ること。食は人間にとって基本的な行為ですが、嚥下に異常が起きると、食物が気管に入る誤嚥による窒息・肺炎といった、生命をおびやかす危険が高まります。嚥下障害は原因が多様かつ対処法が多岐にわたるため、単独の診療科で正しく対処するのが困難な病態の一つです。当院の「えんげチーム」は、学会認定の嚥下相談医が在籍し、歯科(歯科医師、歯科衛生士)、認定看護師、薬剤師、言語聴覚士、管理栄養士らと連携し、専門的かつ多角的に患者さんの「食べる」「飲み込む」をサポートするプロフェッショナルチームです。
 チームとしては、週1回のカンファレンスでメンバーがまり、入院患者さんのその週の検査を共有しながら「この人には、どんな治療やリハビリが必要か」「どうすれば誤嚥を防げるか」について議論しています。たとえば、リハビリ内容の検討(言語聴覚士)、栄養管理や食事形態の検討(管理栄養士)、薬の内服方法の提案(薬剤師)、嚥下に必要な義歯の調整や口腔ケア(歯科)というように、それぞれの専門家の知見を活かして、患者さん一人ひとりの対処法を検討します。入院中の看護を担当するのは看護師なので、食事の介助方法や服薬時の注意点については、摂食嚥下の認定看護師が中心となって担当しています。過去には、ある患者さんの嚥下障害 の原因が服薬にあるかもしれないと薬剤師が指摘し、処方を変えたことで改善したケースもありました。やはり嚥下障害には、多職種の連携が不可欠だと感じています。


    週1回のカンファレンスでは、院内の嚥下障害患者さんの方針確認や情報共有、患者さん一人ひとりに最適な嚥下リハビリテーションの検討などを密に行なっています。

 

「食べる」訓練をするためのオーダーメードのリハビリ方法

 嚥下障害は、患者さんごとに原因と対処法が異なります。「この患者さんは、この姿勢であれば飲み込みができる」という、誤嚥の可能性の低い「ベストスワローポジション」を探すことも、大切なリハビリ方法の一つ。これは、誤嚥の危険性の高い人でも「この条件下なら食べてもOK」という姿勢のことで、背を倒した状態、寝転んだ状態など、人それぞれ異なります。姿勢を探るための検査を重ね、専門家による議論を経て最善の方法が発見できれば、今度はそのベストスワローポジションで繰り返し食べる訓練に入ります。スポーツと同じで、嚥下障害は「食べること」が一番のトレーニング。方法もアプローチもたくさんあり、一人ひとり最適な方法が異なるため、まさにオーダーメードのリハビリ法ですが、患者さんやご家族の気持ちを第一に、えんげチームのメンバーの総力で、「食べたい」という気持ちを叶えたいと思っています。  また、嚥下障害の病態の解明や新しい嚥下法の開発・指導といった、嚥下に関する研究にも積極的に取り組んでいます。食道が抗重力位になる姿勢で食道を鍛える「ブリッジ空嚥下訓練」や、新たな嚥下法「バキューム 嚥下」といったユニークな嚥下訓練法を世界に先駆けて報告(國枝先生)し、注目を集めています。

 患者さんの生活の質を左右する「食」という大切な行為。「食べる」ことは単なる栄養補給にとどまらず、人生においての大切な楽しみです。嚥下障害は「病気だから、高齢だから仕方がない」とすぐに諦めるものではな く、食べたい気持ちに寄り添い、向き合っていくことで改善の糸口が見つかる可能性のある病態だと、我々は思います。えんげチームとしては、今よりさらに多くの診療科と連携し、いずれは外来患者さんへも同様のケアや 治療ができるよう、更なる専門性を磨きながら、すべての患者さんの楽しい食事の時間をサポートしていきたいと考えています。


えんげチームの構成メンバー
多職種の専門家がチームとなり、多角的にアプローチすることで、患者さん一人ひとりの状態に応じた治療やリハビリテーションを検討しています。

  1. 医師(脳神経内科、耳鼻咽喉科)
  2. 歯科(歯科医師、歯科衛生士)
  3. 認定看護師
  4. 薬剤師
  5. 言語聴覚士
  6. 管理栄養士
 
▲えんげチームのみなさん


お話を聞いた人・・・
岐阜大学医学部附属病院 脳神経内科
リハビリテーション科専門医・嚥下相談医
  1. 國枝 顕二郎 先生

  2. 岐阜大学医学部附属病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科
    1. 森 健一 先生