治験特集

Vol.55

2024.03.31

特集

治験特集

皆さんは「治験」にどのようなイメージをお持ちですか。
岐阜大学医学部附属病院では、製薬会社などからの依頼のもと、被験者となる患者さんの不安に寄り添い、きめ細かなサポートを行いながら数多くの治験を実施し、新たな医薬品の開発に幅広く貢献しています。



新たな治療法の開発は大学病院の使命の一つ

 「薬の候補」は、動物を用いて有効性や安全性を確かめた後、人に投与して安全性や有効性を確認する「臨床試験」が行われます。医薬品等を保険診療の中で使用できるようにするためには、医薬品として国から承認を得た後、国に薬の値段(薬価)を決めてもらう必要があります。国から薬として承認を得るためには、適切な効能・効果(使用できる病名等)や用法・用量を決めることが可能な臨床試験の成績を集めて、国に提出する必要があり、この臨床試験のことを「治験」といいます。岐阜大学医学部附属病院では、先端医療・臨床研究推進センター内にある治験管理部門が、製薬会社などの依頼主と病院側スタッフとの調整業務や、被験者候補の選定、同意説明やフォローなどの支援業務を担当しています。同センターにはCRC(治験コーディネーター)が8名在籍するほか、SMOと呼ばれる治験の実施に係る業務を受託する企業が2社参画し、数多くの医師やCRCなどが連携しながら治験に取り組んでいます。

     CRCとは、治験を円滑に進めるためのコーディネートを担う職種です。薬剤師や看護師、臨床検査技師など、専門知識を備えた人たちが担当しています。治験では、あらかじめ決められたスケジュールに則って検査を進める必要があります。開発中の抗がん剤などを投与する場合、厳格に投与するタイミングなどが定められており、それを逸脱することなく管理することがとても重要です。そこでCRCが主体となり、投与のタイミングや検査の抜け漏れなどのチェックを行います。また、不安を抱えやすい患者さんに寄り添い、コミュニケーションを図ることもCRCの重要な役割の一つとなります。
CRC
 治験では、まずは健康な人に投与する「第Ⅰ相試験」から始まり、次に少数の患者さんに投与する「第Ⅱ相試験」、そして多数の患者さんに投与する「第Ⅲ相試験」といった形で、一つ一つステップを踏みながら試験を進めていきます。
 岐阜大学医学部附属病院では、健康な方を対象とした試験は実施しておらず、基本的に患者さんを対象とした「第Ⅱ相」「第Ⅲ相」の試験をメインで行っています。
 被験者となられる方の多くは、当院ですでに治療を受けられている患者さんです。治験を計画した企業からの依頼を受け、院内の審査委員会で治験の実施の審査を行った上で、実施体制を整えます。その後、医師か ら候補となりうる患者さんに説明が行われます。その後、ご本人の同意をいただいた上で、実際の治験に入っていただくというのが一般的な流れです。
 治験の候補となった患者さんには、同意説明文書を用いながら詳しい説明が行われます。副作用などのリスクが生じる可能性などにも触れ、治験に臨まない場合にはどんな治療があるのかなどをお話しした上で、ご 納得された方のみ次の段階に進みます。
 同意をいただいた後は、治験の選択基準に適合しているかを検査で確認します。そして、基準を満たしていることが判明して初めて症例登録が行われます。検査については項目の抜け漏れがないようにCRCが医師に確認を行います。その後、治験薬の投与が始まります。なお、治験の中では、新薬だけではなく、新しい薬の有効性等を確認するために、比較対照を置くことがあります。その場合、プラセボ(治験薬と見分けがつか ないが薬効のないもの)か新しい薬のどちらかに割り当てられた後、治験薬を投与します。

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 治験開始後は、「何週間ごとに来院するか」「来院時にはどんな検査をするか」などが細かく決められています。来院するタイミングには許容範囲があるものの、その範囲を逸脱することはできません。また、治験中に使用してはいけない薬などもあるため、CRCが患者さんに周知を行うなど、きめ細かくサポートを行っています。
 治験と聞くと、患者さんの中には「実験台になるのでは?」といったネガティブな印象を抱く方もいらっしゃいます。実際のところ、すぐ同意書にサインをされる方は多くありません。まずはご家族と話し合ってもらうなど、患者さんご本人はもちろん、周りの方々にもきちんとご理解いただき、次に来院される際に同意書をご持参いただくケースが多数です。また、たとえ治験を進めている途中であっても意思表示をしていただければ、通常の治療にいつでも戻ることが可能です。同意書のサインをいただく時には、必ずこうした説明を行うようにしています。いつでも最適な医療を提供できる体制を整えているという点は、ぜひ皆さんにご理解いただければと思います。

 また、治験の前には、あらかじめきちんと段階を踏んで様々な試験が行われています。動物実験でどれくらいの毒性が出るのかを見極めたうえで、治験はそれよりもはるかに少ない用量で始めたり、健康な人に投与してどのような反応が起きるのかを確認したうえで実施しています。また、通常よりも来院頻度を高くして副作用が出ていないかどうかを確認するなど、安全性には十分に配慮して進めていますので、安心してご相談ください。
 新たな治療法の開発は大学病院の使命の一つでありますが、患者さんの治験へのご協力がなければ取り組むことはできません。患者さんご本人のみならず、同じ苦しみを抱える多くの人たちを救うためにも、ぜひ 当院の治験にご協力いただければと思います。

先端医療・臨床研究推進センターの皆さん

治験についてお気軽にご相談ください
 先端医療・臨床研究推進センターのホームページでは、当院で実施している治験の対象疾患を公表しています。また、病院内にも治験内容を掲示しているため、「内容を詳しく知りたい」とお問い合わせいただくケースもあります。
 先日も、別の医療機関で大腸がんの治療を受けているものの「これ以上の治療法はありません」と言われたという患者さんから、「岐大病院の治験に該当するのではないか」とご相談がありました。特に、患者数が少ない希少疾患の治験などの場合には、全国各地からご連絡をいただきます。当院は、がん診療連携拠点病院に位置づけられているため、がんの治験が多数を占めていますが、皮膚科領域に関連した治験なども多く実施しています。

 治験の対象疾患はセンターのホームページからご確認できます。 ⇒〔先端医療・臨床研究推進センター:募集中の治験


お話を聞いた人・・・
岐阜大学医学部附属病院 先端医療・臨床研究推進センター
    副センター長
  1. 浅田 隆太 准教授

  2. 治験管理部門 部門長
  3. 鈴木 昭夫 臨床教授

  4. 治験管理部門 副部門長
  5. 石原 正志 治験薬管理主任