再生医療特集

Vol.55

2024.03.30

特集

再生医療特集

皆さんは「再生医療」をご存じですか?
「iPS細胞」の登場などで広く知られるようになりましたが、岐阜大学医学部附属病院でも最先端の再生医療が行われています。今回は、歯周病などで失われた顎の骨を再生する研究に取り組む、山田 陽一先生に詳しくお話を聞きました。


患者さんの負担も軽減できる、最先端の治療法

 再生医療とは、病気やケガが原因で失われた臓器や組織を、細胞を使って再生しようとする最先端の医療技術のことです。ノーベル賞を受賞した山中伸弥先生が発明した「iPS細胞」の登場により、最近では広く 世間に認知されるようになりました。

 再生医療の鍵を握るのは「幹細胞」です。受精卵を使った「ES細胞」や特定の遺伝子の働きにより細胞を初期化した「iPS細胞」は「万能細胞」と呼ばれており、どんな細胞にも変化(分化)するのが最大の特徴です。その一方で、限られた様々な組織や臓器の細胞に分化する「体性幹細胞」と呼ばれる細胞の活用も進んでおり、医療現場でもすでに取り入れられています。
 このように、再生医療と一口に言っても幅広いアプローチがありますが、中でも私が注目しているのが体性幹細胞の一つである「歯髄幹細胞」です。歯の中の神経(歯髄)と呼ばれる組織にある幹細胞で、活発に増殖する能力を持つのと同時に、様々な細胞に分化する能力を有しています。また、特定の細胞のみに分化するため、何にでも分化できる万能細胞に比べてがん化するリスクが圧倒的に低いのも大きなメリットです。同じ体性幹細胞として普及が進んでいる骨髄幹細胞の場合、腰から骨髄液を採取する必要があり、ある程度の負担がかかります。その点、歯髄幹細胞であれば、抜け落ちた乳歯や抜歯した親知らずなどから容易に採取でき、取り出した歯髄幹細胞は液体窒素などで長期間保存することが可能です。将来的にはこの細胞を培養することで、すでに歯を失った患者さんなどにも広く提供できるようになると考えられます。

     当院では、この歯髄幹細胞を活用して、歯周病などが原因で失われた歯の土台となる骨を再生する治療に取り組んでいます。まずは歯髄幹細胞に、細胞の増殖を促す栄養分の役割を果たす濃縮した血小板を混 合し、ゲル化した状態のものを作ります。そしてこれをインプラントなどの土台部分に注入します。すると3カ月程度で骨がなくなった部分に骨が再生されます。インプラントが安定するだけでなく、人工材料などを使うケースに比べてしっかりとした骨ができ、短期間で治療を完了できるのも魅力です。
    (右:歯髄幹細胞に濃縮した血小板を混合させ、欠損部に注入します。)
 
    スクリーンショット 2024-03-29 112918.png
     2023年6月には、外部の細胞加工施設に、歯髄幹細胞の取り出しから細胞の増殖までの一連の業務を委託できる体制を構築、歯髄幹細胞を活用した再生医療をより効率的に提供できる下地ができました。現時点では臨床試験の段階ですが、早ければ2024年内にも本格的な治療が開始できる予定です。今後は他の診療科とも連携を図りながら、口腔外科領域のみならず、心筋梗塞、脳梗塞、脊髄損傷、糖尿病の治療などにも役立て、当院を再生医療の先進地にしていければと考えています。
     最近ではメディアなどでも数多く取り上げられ、一般の方から「臨床試験に参加したい」というお問い合わせをいただく機会が増えました。歯科の再生治療に興味をお持ちの方はぜひ一度ご相談いただければと思います。


    お話を聞いた人・・・
    岐阜大学大学院医学系研究科 感覚運動医学講座 口腔外科学分野 
    1. 山田 陽一 先生

    岐阜大学医学部附属病院 歯科口腔外科 ホームページ