国際学術交流

2014年度岐阜大学医学部5年生 高田あゆみ ~Pittsburgh放射線科見学実習体験記~


UPMC Complex

2014年3月19日から4月19日までアメリカのペンシルバニア州、ピッツバーグにあるUPMC(University of Pittsburgh Medical Center)にて1ヶ月間の実習をさせていただき、そのうちの2週間、放射線科での見学実習をさせていただきましたので、ここに体験記を記させていただきます。兼松先生を始め、多くの方の力をお借りして研修させて頂きました。厚く御礼申し上げます。

そもそもUPMCの放射線科について知ったのは、私の一学年上の先輩である砂山先輩の体験記を読んだからでした。その後、ご本人にお会いした時に、UPMCの放射線科でのお話を伺い、どのように準備されたか教えていただきました。(そのため、先輩の体験記に書いてある通りなのですが、)まず岐阜大学放射線科の実習でお世話になりました兼松先生にお願いし、UPMCの放射線科のTy Bae主任教授に許可を得て実習させていただけることとなり、秘書さんとどのような実習にするかメールでやりとりをしました。学生と混じっての4週間のプログラムに参加するか、自分で希望を出して別でプログラムを組んでいただくか、の2択がありましたが、日程も融通が効くということでしたので、2週間の独自のプログラムを組んで頂くことにしました。(海外実習で認められる選択実習は1クール4週間です。私は残り2週間は全く別の経緯で違う診療科での実習の申し込みをしました。もし海外実習を希望される岐阜大学の学生さんが読んでいらっしゃいましたら、2週間では認められませんので、4週間の連続した実習期間を確保しなければなりません。ご注意ください。)

さて、UPMCでの2週間ですが、日本とは違い、アメリカでは放射線科の中で分野ごとにReading Room(読影室)が分かれているため、分野ごとに実習させて頂きました。この2週間のうち、Abdominal Image(腹部)三日間、Chest radiology(胸部)二日間、Neuro radiology(脳・頭頸部)二日間、Muscloskeltal(骨軟部)一日間、そして小児病院にて小児の画像診断(二日間)でお世話になりました。基本的にはReading Roomで先生に画像を見せてもらって勉強させて頂くというスタイルでしたが、とてもフレキシブルな実習であり、お昼にはランチ持参でレジデント(研修医という意味ですが、日本の研修制度とは違い、アメリカでは研修医の先生も放射線科医です。)の先生方の勉強会に参加させていただいたり、CORE(Case Based-Online Radiology Education )という、UPMC独自のオンラインコースを履修させていただいたりしました。

Reading Roomでは一人の先生について回るというようなスタイルではなく、適当に先生に声をかけて画像を見させていただくというスタイルであり、主にレジデントやフェローの先生について画像を見せていただきました。最初は勝手が分からず、戸惑うことも多かったのですが、だんだん要領がわかってきて普通に話しかけられるようになっていきました。レジデントやフェローの先生方は、一通り画像とカルテを見て、所見のメモを取り、上級医に画像を確認してもらってからdictate(音声記録)して読影レポートを作成していました。(dictateとは、パソコンに向かって読影所見を述べるとそれを機械が自動的に音声を文字に変換してくれるというシステムです。昔は所見記録係が医師とは別にいて、その方が医師の言葉を入力していたとのことでした。)私は選択臨床実習で岐阜大学の放射線科を選択し、画像を見て読影レポートを書かせて頂いた経験がありますが、その時に経験した日本の読影所見の書き方と比べると、アメリカでは異常所見だけでなく正常所見まで隅から隅まで述べ、とても長いレポートを作成されていたことが印象的でした。もう一つ印象的であったのは、訴訟の問題から、病院で撮影した画像という画像はすべて放射線科医が読影し、レポートを作成しなければならず、胸部単純レントゲンや超音波の画像もすべて放射線科の先生が目を通していたことでした。日本では放射線科のない病院もありますし、放射線科のある病院でも放射線科医が目を通さない画像は多くあります。また、日本では超音波検査に関しては放射線科医ではなく診療科の先生がかかわることが多いです。読影しなければならない画像が多いということは、アメリカで放射線科の先生が多い理由の一つかもしれません。

COREというオンラインコースでは、症例が20程度あり、自分が医師と仮定して、患者さんの診療にあたるという疑似体験的な学習をしました。症例は、例えば、自分が新人の医師として働いていたところ、救急外来にこられた交通外傷の患者さんを診ることとなり、呼吸苦を訴えており・・・というような症例があり、それぞれの症例に対して、「さて、何の検査をしますか」「所見を述べなさい」「どんな処置が必要ですか」「(処置後合併症が起きて、それを画像で判断させて)どう対処しますか」といったような問題を解き進めていくという形式でした。医師になったら誰でも経験するような疾患が多く、また、内科・外科的な知識と画像所見とをリンクさせて問題が構成されており、common diseaseを掘り下げて勉強することができました。また、実際の現場(Reading Room)と同時並行で学ぶことができたため、そのコースで学んだことを実際の症例で再確認できたり、放射線科特有の医学用語も学ぶことができたりと、たいへん実習の役に立ちました。COREはUPMCの医学生も履修しているものであり、アメリカの医学教育は「密度の濃い学習を楽しくできるように」と心がけて作られているのだなと実感しました。

さて、ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、UPMCは移植医療で有名な病院です。私の実習中にも、移植の画像が多く、日本ではみられないような画像もいくつか見る機会を得ることができました。一番驚いたのは、Abdominal ImageのReading Roomで小腸移植の画像でした。患者さんのnativeの大動脈にドナーの大動脈が接続されており、ドナーの小腸が大動脈、腹腔動脈、上腸間膜動脈ごと移植されていました。(のちにUPMCで知り合った移植外科の先生から、昔は小腸移植がたくさん行われていたが、今はほとんどされていないというお話も聞きました。「技術的」にはそんなに難しくない手術だけれども、小腸はパイエル板など、リンパ組織の豊富な臓器であるため、移植後に免疫抑制を強くかけ、免疫抑制剤を一生飲み続けてもらわなくてはならないため、「臨床的」には難しい移植であり、経管栄養などの技術の発達した今、小腸移植はあまり必要とされなくなった、ということでした。)他にも日本ではなかなか見る機会のない珍しい画像として、銃損傷、ドラッグ使用者のニューモシスチス肺炎などを見ることができました。


小児放射線科のあるUPMC小児病院


子供がワクワクするCT室

UPMCはPittsburgh内に数か所に分かれて病院を持っており、放射線科はOaklandといわれるメインの場所のPresbyterianといわれる建物の中にあるのですが、UPMC小児病院が5年前に新しく別の場所に建設されてから、小児放射線科はPresbyterianからそちらの小児病院に移動したということでした。私は実習の最後2日間を小児放射線科で実習させていただいたのですが、そこでの実習は、私が回らせて頂いたReading Roomの中で最も勉強になり、また最も楽しかった実習でした。小児病院につくとまず、とても親切でフレンドリーな秘書さんが出迎えてくださり、小児放射線科医の先生に一緒に挨拶に回りながら、いろいろな部屋を案内していただきました。小児病院は内装がとてもきれいで、CT室やMRI室などがジャングルのような内装になっていたり、電気を消すと夜空があらわれるような仕組みになっていたりと、子どもたちが狭くて暗い検査室の中でも暴れずにうまく写真を撮ることができる工夫が凝らされていました。秘書さんは一通り説明してくださると、私の希望を聞いて、その専門の放射線科の先生に教えてもらえるよう取り計らってくださいました。最初についた先生は、腹部のCTを専門にされているエジプト出身の先生で、とても素敵な先生でした。最初に画像をみて所見を述べる時間を与えていただき、それに関してfeed backを下さり、また、ささいな質問にも丁寧に答えてくださいました。うまく英語で所見を述べることができなかったり、また先生のなまりを聞きとるのが困難であったりして、言葉のキャッチボールにとても時間がかかってしまったのですが、先生はずっと笑顔で、適切な指摘と優しい言葉をかけてくださいました。


アメリカの懐の深さに感動

UPMC放射線科での実習を通して、少し意外だったことは、他国からきてアメリカの放射線科医として働いていらっしゃる先生方が少なくないということでした。アメリカの放射線科医への道は狭きものですので、ほとんどアメリカのmedical schoolを卒業された方ばかりだと思っておりました。しかし、先ほど述べたエジプト出身の先生以外にも、インド出身の先生、イタリア出身の先生・・・など、自国のmedical schoolを卒業されてからアメリカで放射線科医として働いていらっしゃる先生も多く、また、そういった出身地などは関係なく先生方はとてもフレンドリーに仕事をされていました。その点で、どんな人にも平等にチャンスを与えるというアメリカの寛大さに触れた気がしました。

今回の見学実習において、上手くいったことも上手くいかなかったこともすべて含めて、とてもよい経験ができましたし、なにより、目標となる素敵な先生方に出会うことができました。貴重な機会を与えてくださった兼松先生、五島先生、Ty Bae先生をはじめ、出会った多くの方々、支えてくれた家族・先輩・友人に大変感謝しております。今後、この経験や出会いから学んだことを生かしてより一層精進して参ります。

末筆ではございますが、岐阜大学放射線科の皆様の一層のご活躍を心よりお祈り申し上げます。

岐阜大学医学部 5年生 砂山智未 ~UPMC Radiologyを2週間見学して~


UPMC Presbyterian HospitalエントランスとSouth Tower

2012年3月11~24日の2週間、UPMC(University of Pittsburgh Medical Center)の放射線科を見学して参りました。今回の実習の目的は、放射線科、特に画像診断に興味があり、日本と欧米でのカンファレンスの違いや放射線科医の有り方や画像診断における鑑別疾患の列挙の仕方が欧米ではどのようなものか拝見したいという思いと、もともとneurologyに関心があったのでneuroradiologistと呼ばれる人たちの画像診断を目の当たりにしたいという思いからです。参加した領域は、neuro 2日、thoracic 1日、cardiac 1日、abdominal 1日、bone/muscle 1日、gynecologic 1日、pediatric 3日でした。

今回の見学は岐阜大学放射線科の兼松先生にアメリカでの研修希望を申し出たところ、先生と交流の深いピッツバーグ大学放射線科 Bae主任教授が快く受け入れてくださったという経緯です。五島先生もUPMCで客員教授として在外研究をされており、とても親切にアドバイスをして下さいました。私自身も先方の秘書さんと何通も英語メールのやり取りをする必要に迫られ、英文書類の記載や手紙での冒頭および締めの挨拶など、大変英語の勉強になりました。

ピッツバーグ国際空港に到着すると、Bae教授が車で迎えに来てくれていました。とても親切で気さくな方でした。その日は眺めのいい丘の上まで連れて行ってくれて、ピッツバーグの歴史や地理について教えてくださり、夕食もご馳走になりました。宿泊はUPMCから徒歩で10分ほどのホテルに2週間泊まりました。私のホテルはForbes Avenueという飲食店や雑貨店のある商店街に面しており、少し歩くと大学の建物(メインビルディング・教会・歴史館・ミュージアム・食堂・広場など)がたくさんありました。土日はその辺りを散策して写真を取ったり、ダウンタウンまで下りて買い物をしたりしました。現地で参考書をお借りしましたが、ホテルからUPMCまでは重いものを持ち運ぶのに程よい距離でした。UMPCの先生方は皆親切で、お勧めの参考書を訊くと自分の参考書を貸してくれたり、お勧めの参考書や医学生向け、レジデント向けのサイトを丁寧に教えてくださいました。


骨軟部早朝カンファレンスの風景

毎朝 7:15-8:00
シニア向けのカンファレンスに参加しました。これは40歳以上のベテラン放射線科医向けとなっていますが、若いレジデントの人も積極的に参加していました。毎回題目が異なり、neuro、nuclear medicine、bone/muscle、といった感じで専門外の分野でも参加しておられました。画像のみを提示され、異常所見を述べたあと、部位や性状から鑑別疾患を予測し、"Other imaging? (他の検査法は?)"と訊かれると、"T1 enhanced、T2 STAR、fat suppressed T1"などと答えて、さらに所見を述べた後、"Any differentials?(鑑別疾患はありますか?)"と訊かれると、"From this location, meningioma or schwannoma. (部位的には髄膜腫か神経鞘腫です)"などと答えて、鑑別が挙がらない場合は年齢、性別、主訴などのヒントを与える形式でした。参加者は全然分からなくても分かる限りのことをできる限り述べていました。特に若いレジデントの方にはシビアでしたが、沈黙を作らない根気に驚きました。

私にとっては全てのことが勉強になるため、殆ど全てメモを取っていましたが、他の参加者は重要なところのみiPadなどの電子機器に打ち込むか、まったくメモを取っていませんでした。私は岐阜大学放射線科のデイリーカンファレンスに今まで参加して取ってきた7冊ほどのノートを全て見直していきましたが、説明されて納得いくものが数割くらいで、自分から鑑別をすいすいと挙げることの難しさを改めて感じました。彼らは病変の所見の述べ方が非常に上手く驚きましたが、鑑別の挙がり具合はさほどではありませんでした。岐阜大学放射線科のレベルの高さを感じました。


UPMC Presbyterian Hospital
エントランスとSouth Tower


UPMC Presbyterian Hospital
エントランスとSouth Tower

毎昼 12:00-13:00
レジデント、医学生向けのカンファです。皆、お昼ごはんを持参して参加します。朝と違って講義形式で、プロフェッサーやフェローによる講義がほとんどでしたが、レジデントによる発表もありました。ここでは、臨床で経験する症例発表や、放射性医薬品の取り扱い、検査に伴う合併症など画像診断以外に習得すべき事柄について学びました。

それ以外の時間は全てその分野のreading room(読影室)で、フェローやレジデントの横で教えてもらいました。レジデントが一通り画像とカルテを見て、所見をノートに取ると、フェローやインストラクターによるチェックが入った後dictate(音声記録)するという流れでした。音声を文字に変換するディバイスの使用がアメリカでは一般的なようです。日本との違いは、reading roomが分野ごとに離れた場所にあること、参考書がほとんど置かれておらず、調べるときはパソコン上で、radiology専門のサイトを検索することなどです。専門外の部分でも一通り異常所見がないか見ます。これはどのreading roomでもそうでした。正常解剖をしっかり理解した上で異常所見も頭に入れる、大変だけれど、経験が記憶の助けとなり、自然と定着していくということ、朝カンファでなかなか鑑別を挙げれないレジデントの段階から、日々自ら分かるところまで診断する努力と、その後の個別指導によって、所見や鑑別をすいすい述べられるまでに成長するということを、レジデント、フェロー、インストラクターを見ていて感じました。彼らは質問すると笑顔で嬉しそうに丁寧に答えてくれます。他の学部の学生が見学に来ている日があり、彼らは基本的なことから根掘り葉掘り恥を惜しまずなんでも訊いていました。それでもまわりは変な顔したり、答えなかったりしませんでした。彼らは質問されるのが嬉しいみたいで、そういった指導体制が若い層を伸ばしていくんだなと思いました。

今回の実習では、医学生のコースとずれた時期であったので医学生に会えませんでしたが、次回は医学生のコースに混ざって彼らと切磋琢磨したいと思います。