国際学術交流

五島聡先生の学術エリート養成塾IRIYA体験記

Introduction to Research for International Young Academics Seminar (IRIYA) 2007に参加して

2007年11月25日~30日、今年もアメリカ合衆国シカゴで北米放射線学会(RSNA)が開催されました。私自信にとって6度目のRSNA参加となりますが、今年はこれまでとはひと味違う思い出となりました。今回RSNAが主催する「Introduction to Research for International Young Academics Seminar (IRIYA)」という国際学術養成セミナーに参加する機会を得、一若手研究者として非常に感銘を受けましたのでご報告いたします。

時はさかのぼること2007年3月23日、"読影"という日常業務を淡々とこなしていた私に、上司の兼松科長から、「こんな回報来てるけど、応募してみたら?」とお言葉を頂いたのが始まりでした。回報の文面からは,どうやら「15人程度の若手研究者が北米以外の世界中から選出され,放射線医学研究の手ほどきを受ける」といったものでした。その時は全体像が把握出来ませんでしたが、"Research"、"Academic"という言葉に惹かれて応募しました。そして、その後その存在すら忘れていました。ちょうどその頃私はかつてから共同研究を勧めていたBae教授からのお誘いを受け、2007年8月よりアメリカ合衆国ピッツバーグ大学放射線科にvisiting assistant professorとして留学することが決定していたため、その準備を進めていました。そんな6月のある日、いつものようにメールをチェックすると膨大な数のスパムメールの中から発見しました・・・・Congratulations!と。思い出すのにしばしの時間が必要でしたが、「大変光栄なこと」とすぐに承諾の旨をメールで返信しました。


IRIYA参加者リストはLake side buildingのAwardコーナーに掲載される。左は上司の兼松先生、中央が筆者、右は先輩の近藤先生。

IRIYA参加者はシカゴダウンタウンのマリオットホテルに11月24日から6泊することが推奨されます(他のホテルでも宿泊代を自分で払えば宿泊できます)。他のIRIYA参加者と部屋をshareすれば宿泊代は完全に無料。家族と宿泊したり個人部屋希望の場合は余分な代金を自分で負担すれば可能です。自国からの旅費も$1,250までカバーされます。ホテルの部屋は「出来るだけ性別や宗教が異ならないように気をつける。」とコメントが添えてありました。私は、、、、そんな度胸もなく、一泊$114を余分に支払って妻と子供を連れて行きました。ホテル宿泊や他のScientific paper sessionとの兼ね合いなどはIRIYAの担当者が親切に連絡と取ってくれました。

IRIYAとは若手研究者が今後も研究意欲を維持し、研究者として成長し、さらに後身の指導を可能にするための帝王学講座とでもいいましょうか。アメリカでも年々Academic Radiologistが減っている現状があり、その改善策の一つとして10数年前からアメリカ人若手研究者を対象として開催されていたセミナーがIRIYAとして数年前より外国人にも門戸が開かれています。今年は17人のNon-Americanと40人のAmericanがある時は同じ部屋で、ある時は別の部屋で毎日講義を受けました。参加国別の人数は韓国3名、インド2名、ブラジル2名、メキシコ2名、イギリス、オランダ、イスラエル、ドイツ、エルサルバドル、ラトビア、日本各1名でした。ここでもやはり韓国のパワーが目立ちました。

日曜日のレセプションに始まり、月曜日から木曜日の午前中まで毎日、午前と午後のレクチャーがありました。水曜日にはLunch timeに"Role Model Luncheon"と題したworkshopが設けられ、参加者は7人ずつのテーブルに分かれ、各テーブルには1-2名の重鎮達を向かえ、ざっくばらんな会食が行われました。火曜日の夜には宿泊先のマリオットホテルにてパネルディスカッションを兼ねたCocktail partyが行われ、Non-American、Americanともに各国や各施設の現状などについてお酒を飲みながらゆったりと語り合うことが出来ました。


火曜日6:00p.m.−10:00p.m.に行われたDinner and Cocktail Reception-Panel Discussion: Why Academics? Why Private Practice? パネルディスカッションの後、57名の参加者によるFree talkが行われた。

毎日の講義の内容は「論文とはPurpose, Materials and Methods, Results, Discussions, Conclusion.から成り立つ」とか「Materials and MethodsとResultsは読者が見やすいように一対一の対応が求められる」などといった論文書きのいろは、統計の際のテクニック、hypothesis(仮説)の組み立て方、プレゼンの際の文字のポイントの大きさに至るまで、研究に絡む一切の必要事項が含まれます。多くが基本的な事項ですが、これまでまとまった講義を受けることがなかった私には非常に新鮮かつ有意義なものでした。

月曜日の午後にはPublishing Your Manuscript in Radiologyという内容でかのDr. Anthony V. Protoからの講義がありました。ご承知の先生方のほうが多いでしょうが、私自身がRadiologyというjournalについてよく知りませんでしたので、Dr. Protoの話を基に簡単にご紹介させていただきます(私の独断と偏見に基づく和訳ですので、幾分のご容赦をよろしくお願いします。)。言わずと知れた放射線医学分野ではNo.1の雑誌であり、一年に12冊発行されます。毎月150~200件の投稿があり、OverallでのAcceptance rateは19%だそうです。EditorであるDr. Protoは「我々の分野では最高峰で最も意義の深いjournalであろう。」とお話されていました。


Dr. Anthony V. Protoとの記念撮影に成功。幾度となく、Dear Dr. Proto.とRadiologyにcover letterを書いた相手がこの先生。感動の瞬間であった。Dr. Protoの手は大きくて分厚い手だった。

その他に個人的に大変勉強になった講義は統計でした。感度、特異度などの基本的な話からROC解析についてなどやや高等なテクニックについてまで丁寧な解説がありました。この講義の内容の大まかなものはRadiology 2003; 228:3-9にわかりやすくまとめられていますので興味のある方は是非ご参考にされると良いかと存じます。

参加者は現在進行中の研究もしくはこれから行おうとする研究について5分間でプレゼンすることが求められ、17名全員が口頭発表をしました。一演題毎に、3人のパネリストから論文査読さながらに指導を受け、質疑応答が3分続きます。質疑応答といっても一般演題のそれとは異なり、実際の研究演題を題材としたresearch projectの組み立て方と表現した方が良いでしょう。火曜日と水曜日の午後を使い、合計3時間がこのWorkshopに当てられました。

さらに印象に残ったのは"Finding a Mentor"という講義でした。私は恥ずかしながらMentorという単語を知りませんでしたので、その場でこっそりと電子辞書を検索しました。

Mentor:Men•tor/méntɔə;

  1. [ギ神話]メントル(Odysseusがその子の教育を託した良指導者).
  2. 良き指導(助言)者.(指導)教師.

講義をしたMelissa Rosado de Christenson先生は述べられました。良きMentorを見つけることがAcademic careerを進むにあたり、最も重要なことである。そして、それは簡単なようで難しいと。良いMentorとは1.気が合う人物、2.Mentorになることを約束してくれる人物、3.目標を高く設定してくれる人物、4.初心者のために時間と努力を割いてくれる人物、5.どんどん経験を与えてくれる人物、6.充分成功していて尊敬出来る人物、7.率直で偏見のない人物、8.初心者の疑問を簡単に解決しない人物。

日本人にとってMentorを選ぶという概念はそれほど一般的ではないかも知れませんが、少なくとも自分が将来そうあることができるように意識してゆくことが重要かと思いました。私個人のことを振り返ると大学院入学時から研究、臨床、教育の全てにおいて指導を仰いできたMentorと言うべき先生がいらっしゃいます。私にとって尊敬すべき上司であり大先輩であり、「自分は良いMentorに巡り会ったのだな。」と実感しました。

今回IRIYAに参加して毎日講義を受けるうちに、これまで雲のようであった未来がもう少しおぼろげな形を成すようになりました。忙しい日常にかまけた自分へのいろいろな言い訳もすっきり晴れた感じがします。Workshopの際Dr. Anthony V. Protoに「昨年初めてあなたのRadiologyに自著論文が掲載されました。記念に写真を一緒に撮ってもらえませんか。」と恥ずかしながら話しかけたときに握手をしながら頂いた言葉が忘れられません。「おめでとう、若いのにすごいね。僕の雑誌はなかなか難しいからね。君はきっと良い研究者になるよ。僕が保証してあげるから、今のモチベーションをいつまでも維持しなさい。」

今回はこのようなに貴重な体験をさせていただいたため、ここにご報告させていただきました。研究の道に少しでもご興味のある方は一度応募されるとこれからの人生への大きな刺激になるかと思います。最後に、このIRIYA参加および海外留学にあたり温かく応援してくれた岐阜大学放射線科の全員に心よりお礼を述べたいと思います。どうもありがとうございました。